「なんだか副長が離れていく気がしますね」
突然市村がひょっこりと現れた。
一瞬驚いたが、斉藤が軽く頭を撫でた。
今まで新撰組のメンバーだけで信頼関係を築いてきたため、自分達が知らない間に仲良くなっているのを見るとなんだか置いていかれたような寂しい気持ちになる。
しばらくすると三人はバラけた。どうやら自分の持ち場へ帰るらしい。
土方も帰ってくる。
「集まってくれ」
その表情は再び厳しいものとなっていた。
きっと土方が指示を出すということは良いことではないのだろう。
今までの経験で美海はそう察した。【生髮】激光生髮儀如何使用?真的有效嗎? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
「始めに言っておく。ここからの道のりはかなり厳しくなるだろう」
実は今まで中立態度をとっていた諸藩は鳥羽・伏見の戦い後にもうほとんどが官軍となってしまった。
つまり周りは全て敵と言っても過言でないほどの状態になっていた。
「命の保証は一切ない。これ以上俺はどうこう言わない。それでも着いてくるやつだけこい」
土方は多くを語らなかった。かなり抽象的にしか言わなかったが、これから今までの生活が返ってくるのは無に等しいのだろう。
半端な覚悟では生きていけない。
「着いてこない奴は?」
永倉が聞いた。
ここで普通に帰すならほとんどの隊士が逃げてしまうだろう。
新撰組は隊士を局中法度で縛り付けていた面もある。
唾をゴクリと飲む音が聞こえた。
「切腹だ。この場で腹を斬ってもらう」
その場は静まり返った。
ここで腹を斬るか。
それとも立ち向かうか。
土方さん…。
何を想っているのか、土方は辛そうな顔をしている。
山崎さんが亡くなってから、土方さんは益々厳しくなったような気がする。
それは自分を追い詰めているようにしか見えなかった。
「でもさ。命の保証がないっつっても今までもなかったよな。それが状況が変わっただけじゃねぇの?
俺は着いていくぜ」
最初に声を挙げたのは原田だった。
「左ノ…。すまねぇ…。お前は妻子がいるってのに…。せめて最後に会わせてやれれば…」
「何が最後だ。俺らは勝って笑って旗上げて帰ってこればいいことだろ」
原田がニカッと笑った。
「大体よぉ。どうせ土方さん負ける気なんてねぇんだろ。俺も着いてくよ」
永倉も笑った。
そんな風に笑顔を向けられると益々胸が苦しくなる。
本当にこんなやり方しかできない自分が憎い。
「今さらどこへ行けって言うんですか」
斉藤はチラリと土方を見る。
「もちろん自分は最期まで副長に着いていきます!それが副長の小姓の役目です!」
次々と隊士が声を挙げた。
大体今までだっていつ死んでもおかしくない状況で生きてきたのだ。
切腹も怖いが、ここまで来たらとことんやってやろうじゃないかという開き直りもある。
「私も行きますよ」
美海も真っ直ぐに土方を見た。
「総司。お前はどうする」
「それ聞きますか?そんなの答えは決まってる」
沖田はため息をついた後、真っ直ぐに顔を上げた。
「私は土方さんと近藤さんにずっとついていく。私は死んでもあなた方についていきますよ。たとえそこがどんな地獄だったとしても。わざわざこんなこと言わせないでください」
土方はふっと笑った。
「よし!皆行くんだな!?」
近藤が大声を挙げた。
「「「おぉぉう!」」」
隊士達は頷いた。
少し離れたところにいる会津からも声が聞こえた。
あっちもあっちで佐川がまとめているのだろう。
「絶対に勝つんだ!」
「「「おぉぉぉう!!」」」
「最後まで俺達だけは絶対に裏切っちゃいかん。最後までだ」
近藤は自分に言い聞かせるように言った。
こうして新撰組は次の屯所へ向けて歩き出した。
それは彼らの未来へ歩き出したことにもなる。
「これからどうするんですか?」
土方の隣へ美海が小走りで行く。
「とりあえず、甲州を押さえろと幕府には言われた」
土方は前を向いたまま答えた。
幕府なんてもうないも同然なのだが、まだ幕臣達が江戸城にいる。
立てこもりのようなもんだ。
「甲州…」
「とりあえず、今回ここは絶対に取りたい。まずは募兵を開始しようと思う」
「ふーん…」
あんなにいた新撰組は今や40人弱へ減った。
死んでいったのが大半な訳ではなく、一旦診療所へ送られた者や脱走者なんかがその大半だ。
これからまたどのくらい減るか。
土方は美海の方を見て何か言いかけたが再び前を向いた。
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