く際に、自身の正室を同行させるのは、普通では考えられないことであった。
すると信長は「はははっ」と快活な笑い声を響かせた。
「確かに中国攻めの為の出陣ではあるが、いつ、そなたを備中まで連れて行くと申した?」
「…では?」
「そなたが付いて参るのは京まで。本能寺での茶会が済むまでじゃ。
そなたを出陣に同行させるのは無理じゃが、茶会だけならば、そなたが共に参っても不自然ではなかろう。
正室として、招いた公家衆らをもてなし、茶会が終わった翌朝には、速やかに安土へと戻るのだ」
そういう事かと、濃姫は思わず得心した。【生髮】激光生髮儀如何使用?真的有效嗎? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
しかし備中出陣の道中であることに変わりはなく、臣下らの手前、表立って自分を連れて行くのはどうなのだろう?
濃姫が心配そうにその旨を告げると
「であれば、儂の正室としてではなく……そうよのう、の侍女として参ってはどうだ?」
信長は本気とも冗談ともつかぬ語調で言った。
「侍女、にございますか?」
「あくまでも名目上じゃ。が、“信長御台 ” の名が残らぬだけでも随分と違うであろう。 …それに」
「それに?」
「得意であろう?身分を隠して行動するのは」
「まぁ。また左様な意地悪を」
濃姫はむくれ顔をしたが、せん否定も出来なかった。
若い頃に信長の行動を偵察して以来、町民に扮装したり、身代わりを立てたり、何度密かなる行動をしてきた事か…。
だが改めてその事実をみると、何やら腹の据わる思いがあった。
濃姫は会釈するように頭を垂れると
「──承知致しました。ならば、侍女の “ おのう ” として、させていただきまする」
と決然として述べた。
「侍女のおのう…か。はははっ、それは良い」
「お望みならば、そのような扮装も致しましょうか?昔のように」
「皮肉を申すな。──そなたはこの信長のじゃ。正室の格式で、しかと輿に乗せて上洛させる故、心配致すな」
そう言って、信長は穏やかにった。
信長の屈託のない笑顔を見ると、どうしても心の構えがんでしまう。
濃姫は愛情深い妻の顔になって、改めて夫の面差しを見据えると
「くどいと思われても致し方ありませぬが……まことに、お考えを変えられるお気持ちはないのですか?」
静かな口調で、今一度ねた。
「せめて、場所を変えていただく事は出来ませぬか?本能寺ではなく、いつもお泊まりになられている妙覚寺になされては?」
「残念ながら変えられぬ。それに妙覚寺へは、此度共に出陣する事となった信忠が入ることになっておる」
「であれば、寺を変わっていただけるよう信忠殿にお話しすれば」
「いや、信忠は首を縦に振らぬであろう」
「…何故、そんなことが言えるのです?」
濃姫が眉根を寄せると、信長はどこか不服そうな面持ちになった。
「多摩の恩方に、例の武田の姫がおることが分かった故、姫を妙覚寺へ招き、対面する手はずになっておるそうじゃ」
「…武田の姫と申されますと、松姫殿にございますか!?」
「他に誰がおるというのだ」
「では信忠殿は、妙覚寺にて松姫殿とご対面あそばされる事になったのですね!?」
「だからそうじゃと申しておるであろう」
濃姫は思わず胸の上に両の手を重ね置き、うっとりした表情を見せた。
「それは何と素晴らしき事にございましょう。のう、齋?」
「まことに。家同士の事情によって引き離されていたお二人が、逆境を乗り越えて、
ようやくご対顔を果たされるとは…。まるで絵物語のようでございます」
「長らく文のやり取りをなさっておられた故、きっとお二方とも馬が合うはずじゃ」
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