
弘就は不安そうに義龍を仰視したが、相手からは何の反応も返ってこない。
もはや義龍の面には、悲しみも驚きも怒りもなく、ただ静寂のみが貼り付いているかのように実に平然としていた。
言い換えれば軽く茫然自失していたのかも知れないが、義龍の中にある主君らしい気高さが、それをそうとは感じさせなかった。
「……弘就」
ふと義龍は、虚ろな目で力なく弘就を見据えると
「座所へ戻ろう。今宵は殊の他冷える」
「殿─」
「この大なる身故か、風の当たりどころが多過ぎて寒いのじゃ。……早よう火に当たりたい…」
そう伏し目がちに呟くと、小さな作り笑顔を浮かべながら、一人とぼとぼと薄暗い廊下を歩いて行った。
弘就は相手の胸中を思いやってなのか、あえて付き従うことはせず、静かな眼差しで主君のその広い背中を見送っていた。
ぽっかりと空いてしまった義龍の心の中に、激しい音を立ててわき上がっていた憎悪の念になど、無論気付く由もなく。
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枝切り鋏の心地良い音が清洲城・奥御殿の屋根の上で響くのを、濃姫は居室の縁に端座しながら、穏やかな心持ちで聴いていた。
いつか信長に頼んでいた前庭の修繕の為に、腕利きの庭師たちが連日濃姫の御座所の庭に集められ、
草木の植え替えや剪定(せんてい)、花壇や池の普請、庭石の配置変えなど、大がかりな手直しの最中なのである。
「不思議なものにございますなぁ」
三保野が縁に白湯を運びつつ、濃姫に語りかけた。
「不思議とな?」
「つい二、三日前まであんなにも殺風景な庭でしたのに、もうこんなにも様変わりして。まるで、もののけの技を見ているようでございますなぁ」
三保野の素直な感想に、濃姫は思わず笑みを漏した。
「もののけとは、また失礼なことを申す。そこは職人方の技というべきであろうに」
「で、ですから、職人方の技が妖術のようで不思議だと言いたかったのでございます」
慌てて言葉を重ねる三保野をちらと見て
「ま、そういう事にしておこうか。…実際、その通り故のう」
濃姫は朗らかに微笑(わら)いながら、再び前庭に目を向けた。
まだ修繕の途中ではあったが、凸凹が目立っていた地面は綺麗に地ならしされ、そこに道を造るように白い敷石が十字の形に敷き詰められていた。
その脇には躑躅(つつじ)などの高さの低い木々が敷石に沿うように植えられ、十字の道の中間には小さな作り池が設けられている。
池の上にはこれまた小さな朱塗りの太鼓橋が架けられており、その奥の左右に大きな二つの花壇。
更にその奥に、新たに植え直された樹木たちが天に向かって賑々しく枝を張っていた。
木々を奥に、花々を手前に配置した為、以前よりも庭がずっと広々として見え、何より典麗で美しいのである。
「なれど姫様、少々樹木が多過ぎはしませぬか?」
木の種類もばらばらで、まるで統一性が感じられないと、三保野は小言を漏らした。
「殿があえてそう命じられたのです。春には桜が咲き、秋には紅葉が色付く。四季の趣がより深く感じられる庭になるようにと」
「左様にございましたか。…にしても、部屋作りが不得手な殿も、庭作りはお見事なものにございますな」
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