
「それ以上言うでない。今、その事を最も気にかけているのは、誰あろう殿ご自身じゃ!そちにはそれが分からぬのか!?」
「も、申し訳ございませぬ!出過ぎた事を申しました」
三保野は慌てて低頭し、自らの無礼を謝した。
「殿にとっては一番のご忠臣であり、幼き頃より、教え導いて下されたであろう平手殿が亡くなられたのです。
その事実だけでも、殿には受け入れ難き程に悲しい事のはずじゃ。
ましてやそれが、ご自分のせいやも知れぬという懸念があれば…どれだけお辛いか…」
信長の気持ちを慮るように言うと 【植髮前後大不同?】談植髮成功率與植髮心得 -
「左様な話は、殿の前では絶対に言うてはならぬ。下女たちの前でもじゃ。良いな!」
濃姫は三保野に厳しく申しつけるなり、肩を怒らせながら御殿の中へと入っていった。
濃姫はその日一日、奥御殿の自室に閉じ籠り、ひたすら夫の帰りを待ち続けたが、
夕餉の刻限になっても、また就寝の刻限になっても、信長は那古屋城へは戻って来なかった。
そんな夫を心配するあまり、九つ半(午前1時)を過ぎても姫は寝付けず、床の中でじっと寝所の高い天井を眺めていた。
──今日は本当に騒がしい日だった。
天井に視線を当てたまま、濃姫は重々しい気分で一日を振り返った。
もはや三保野に忠告するまでもなく、あれから城内では政秀逝去の話で持ちきりであった。
その殆んどが、優秀な傅役の早過ぎる死を悲しむものばかりだったが、中には政秀の突然の自刃を怪しみ
「例の葬儀の場での殿の愚行──。傅役として、あの折の責任を取られたのではあるまいか」
「家督争いにおける、他のご重臣方との確執に悩まれた末の事ではないか?」
等と、勝手な憶測を並べ立てる者たちもいた。
そんな心ない言葉に、濃姫は正直やきもきしていたが、自身も政秀の訃報にはすっかり動揺しており、
重ねて信長が戻らない不安感も相俟って、とてもではないが耳に届く一人一人の言葉を窘める気にはなれなかった。
ただ、今はとにかく、政秀の亡骸を見たであろう信長の口から、彼の死に関する委細を伺いたかった。
自刃は確かであったのか?
どのような最期であったのか?
遺書などは残していたのか?
訊きたい事、話したい事が山積みであった。
濃姫にとっても政秀は、信長との出会いの切っ掛けを与えてくれた、いわば自分の半生の基盤をつくってくれた人物である。
これから共に信長を支え、守っていく同志の一人とも思っていただけに、無念この上なく──…
ドンッ
と思っているや否や、俵が畳の上に落ちたような鈍い音が、ふいに寝所の外から響いて来た。
何事かと思い、濃姫がサッと上半身を床から起こすと
「御免つかまつります」
寝所の襖が細く開き、侍女のお菜津が顔を出した。
「如何した? …今の音は何じゃ」
「殿がお戻りになられました」
お菜津の言葉に、姫は沈みかかっていた両の目蓋を弾くように開いた。
「其はまことか !?」
「はい。……しかしながら、かなりお疲れのご様子にございます」
濃姫はお菜津の報を聞きながら、布団の中に入れていた両足を素早く外に出し、立ち上がった。
「殿はいずこへおられる !?」
「お方様の御居間の方に入られ、休んで…いえ、寝ておられます」
「寝て?」
「ご覧になれば分かるかと」
近期熱門活動... |