「そこ!二人でへらへらするんじゃない。そんなの私は認めちょらん!!」
自分は至極真っ当な事を言っているはずなのに三対一の構図になってしまい,苛立ちから訛が出た。それに目を輝かせたのは三津だった。
だが怒られているのに好奇の目で見ては更に怒られる。必死に表情を無にしようとするが,目の輝きは隠しきれない。
「……三津,珍しい物を見るような目はやめなさい。」 https://www.easycorp.com.hk/zh/virtual-office
そんなキラキラした目で見られると調子が狂う。今は我が妻を不埒な目で見る輩を説教中なのだ。
「だって小五郎さんが訛るの可愛いんやもん。」
「今はその話は置いといてくれ。とにかく三津に添い寝はさせん。九一と二人で寝とけ。」
「いや,別に一人で寝れるって。木戸さんが変に心配しちょるだけで俺は全然大丈夫……。」
勝手に変な気を遣っておいて理不尽に怒ってくれるなと山縣は口をへの字に曲げた。三津の添い寝だって本気でしてもらおうなんて思ってない。ただの冗談じゃないか。
「それならいいんですけど,もし寝られへんのやったら眠くなるまで話し相手になるんで声かけて下さいね?」
三津に顔をのぞき込まれて山縣は少し仰け反りながら頷いた。
「そう言って三津の方が先に寝るけぇなぁ。」
入江は京の藩邸での事を思い出した。吉田の死を受け入れ難くて,脆さを全面に出して三津に甘えた時を思い出して少しにやけた。
三津もその時の事を思い出して頬をちょっとだけ赤くした。
あの時は入江をそこまで意識してなかったが,今となっては同じ布団で寝るなんて大胆な事したなと急に恥ずかしさが出て来た。
桂にとって三津と入江が二人の世界に入るのは面白くない。寧ろ許してなるものかと嫉妬がむくむく顔を出す。眉間のシワに加えて目元が引き攣りだした。
「三津,そろそろ休もうか。」
「そうですね。そしたら九一さん,山縣さんをお願いしますね。」
「嫁ちゃん何で入江と寝る前提なん。」今度は山縣の目元が引き攣った。何故この夫婦は自分と入江を一緒に寝かせたがるのか。
無い頭で考えた弾き出された結果,
「俺を欲求不満な入江の餌食にする気かっ!!」
「馬鹿言うな。私こそ願い下げじゃ。」
入江は思い切り山縣の後頭部を叩いた。私にだって選ぶ権利があると入江はご立腹。
桂は相変わらずだなと冷めた目で入江を見た。自分は選ばれかけた側だった。
「九一さん,その冗談この二人には通じませんよ。本気で狙われてると思ってます。」
三津はそんな訳ないのにと一応笑いを堪えながら言った。
「なぁ?私が一つになりたいのは三津だけやって言うのに。」
久しぶりに入江から口説き文句を聞いた三津は分かりやすく赤面した。そんな笑顔で言われたらその顔を直視できない。
「人の妻を口説くなっ!三津っ!寝るよっ!!」
ここに居ては頭がおかしくなると桂は片手で眉間を押さえながら三津の腕を掴んだ。
「好きにしていいって言ったやないですか。そりゃ隙あらば抱きますよ。何言ってんですか。」
それを許したのあんたでしょと入江は冷静に言った。
「九一さん……あんまり大っぴらに言う事じゃ……。」
「三津もあからさまに悦ぶんじゃない。」
「小五郎さん,これも九一さんの遊びのうちなんで真に受けないで下さい。」
三津も至って冷静に言い放った。これが遊びのうちだなんてどんな神経をしてるのか。桂は頭がくらくらした。
「じゃあもう寝ますね。おやすみなさい。」
三津は桂を引きずって山縣の部屋を後にした。
自室に戻った三津は,頭が痛いと座り込んでしまった桂の着替えを用意して手際よく床を整えた。
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