｢九一と二人の時はどんな話をしてるの？｣

｢九一と二人の時はどんな話をしてるの？｣嫉妬ではなく純粋にどんな会話か気になるんだと桂は問いかけた。畳にごろりと体を横たえてかなり寛いだ体勢を取った。｢さっきは将軍様がご逝去されて京の治安は悪くなってないかと。あとは和宮様のお話を。｣三津は桂の傍らに腰を下ろして話の内容を伝えた。｢へぇ。意外と堅い話をするんだね。｣｢たまたまです。九一さんが和宮様を悼んではったから。政の犠牲になって江戸に嫁がされた上，旦那様が亡くなった今あっちで心細いだろうなって。それで私も犠牲者やって言うんですよ。小五郎さんも私の人生を奪ったって言わはったけどそうやないですよ？色々あるけど出逢えて良かったって思ってます。｣それにはまた桂の涙腺が緩みかけた。｢あとおうのさんに会いました。初対面で歩く問題児と言われました。｣それを聞いて緩みかけた涙腺は元に戻った。そして腹の底から笑った。動態紋消除 ｢笑わないで下さいよ。それでね？おうのさんは高杉さんの奥さんと仲良くなりたいそうです。んで，どうすれば私達のように円満な関係を築けるのか聞かれたんですけどね。｣｢へぇ。面白い事を言うね。｣｢私から言える事は何もなくて……でも九一さんと意気投合してましたよ。｣｢あー……。｣何となく想像できると声を洩らした。｢私はどの立場でものを言えばいいか分からんかったし，そもそも言える立場にないなって。だって私高杉さんと同じ立ち位置ですよ？男の人ならまだ分かりますけど，女の癖に有り得ないですよね。｣妾を囲う男はそこらに居るが夫公認の恋仲を傍に置いてる女なんて前代未聞だ。改めてとんでもない事をしてる自分自身が恐ろしくなった。｢私嫌われて当然です……。｣｢急にどうした。｣突然項垂れて投げやりな発言をしたから桂は体を起こして三津の傍に寄り添い，がっくり落ちた肩を抱いた。｢よく分からんが何があっても私は三津の味方だよ。三津が私を見捨てずいてくれたように私もずっと君の傍に居る。｣｢ありがとうございます……。でもこんな女身近におったら嫌やろなって客観的に思いまして……。｣文達は慕ってくれるが，女将のように簪を振りかざすぐらい目の敵にされてもおかしくはない。悲観的になっていると甘やかしてくれるのがこの男だ。｢嫌う奴は放っておけばいい。ただ君に危害を加えるなら私も九一も，ここのみんなもそんな奴を許さない。｣大丈夫，味方もいるよと優しく微笑んだ。桂の柔和な顔に三津は弱々しくも微笑み返した。人間の本心など見えないから，本当の味方とそうじゃない人間の見分けはつかない。だからこちらが信じるしかない。｢私の周りにいる方々はホンマに優しい人ばかりです……。やからその方達の気持ちを踏み躙らないように振る舞いには気を付けます……。｣桂はその人の好さが心配だよと苦笑いを浮かべた。｢君は今まで多くのモノを失った。だから少しぐらい多くを手に入れても罰は当たらないよ。それだけ周りにも尽している。｣｢そうですかねぇ……。｣だとしてもこんな形で手に入れるのは変じゃないかと三津は納得しない。そんな三津を桂は穏やかな表情で見つめた。｢三津の常識から外れてるからきっと納得はいかないだろうが，私は与えられるべくして与えられた物だと思ってる。沢山の人に愛される事。それが君に与えられたモノ。来世では稔麿が待ってる。三津は幾年先まで幸せを約束されてると思ったらいいよ。｣それでも三津が，自分なんかが幸せになってもいいのかと言うような顔をするから，桂は深く考えるのは止しなさいと笑って頭を撫でた。｢三津は幸せにならなきゃいけないよ。今の私が君を幸せにするなどおこがましいし，信用できないと思うが，その代わり幸せになる助けになればと思う。だから甘えて頼って欲しい。｣甘い言葉と共に三津を引き寄せて腕に閉じ込めた。『相変わらず私に甘い人や……。』