｢九一さんが気に病む事やないです

｢九一さんが気に病む事やないです。それに何度も死にかけてきた私にはどうってことないですよ？｣｢やけぇもう三津の体に傷負わせたくないそ！いっぱい痛い思いしてきたんやけぇもうええやろ。｣入江は三津の背中をそっと撫でた。もう充分過ぎるくらいの傷を負っている。もう痛みに慣れてほしくない。見えない傷はどれほど抱えているのか分からない。｢ハラハラしますか？私見てて。｣｢たまにする。でも何となく三津ならこう言うかなとかこうするかなって読めるようになってきてだいぶ減った。｣｢ふふっ流石九一さんですね。一之助さんには心臓いくつあっても足りんって言われました。｣それを聞いて入江は声を上げて笑った。嬉しかった。自分は誰よりも三津を理解してるのだと思えて。【植髮前後大不同？】談植髮成功率與植髮心得 - ｢そんなに笑います？｣少し不貞腐れたような声に入江は腕を緩めてその表情を確認した。不服そうな顔に愛しさがこみ上げてにやにやが止まらない。｢あの戦火から逃げ帰ってようやく三津の元へ戻れた時ぐらい今嬉しい。｣何度も三津三津と名を呼んで両手で頬を挟んで顔を覗き込む。三津は恥ずかしくて必死に顔を背けた。一月離れて耐性が薄れてしまった。｢どしたん？藩邸におった時の三津に戻った？女扱いしたら照れて挙動不審になる三津に。｣｢私そんなんでしたか？｣｢うん，迫られるのに慣れちょらんけぇからかい甲斐があった。私の小姓してくれた時壁側に追い詰めたら凄い早さで逃げ出したの忘れんわ。｣入江はくくっと喉を鳴らした。そう言えばからかわれてたなと思い出した三津は口を尖らせた。｢身の危険感じたらそりゃ逃げますよ。｣｢でも口づけは逃げれたのに逃げんかった時あるやろ？｣｢それは！｣あったかもしれない。舌を絡める口づけをされた時，頭がぼーっとして抵抗するのを忘れたような気もする。思い出しただけで顔から火が出る。顔だけが熱い。｢……手慣れた遊び人やなって呆れてただけです。｣呆れて逃げるのも忘れただけだと何とも苦しい言い訳をした。｢玄瑞ほど遊んどらん。｣｢待って理想の兄上像崩れるから兄上の名前出さないで。｣聞かなければ良い兄のままで心に留めておけるのだ。頼むから下衆な話で名前を出してくれるな。｢でもここはみんな知り合いやから塾生時代の話は一之助さんに聞けば分かりますけどね。｣多分聞きたくない事まで教えてくれるだろうと思う。きっとしずも知ってるはずだ。｢待ってそれは狡い。周りから聞くの狡い。絶対いらん尾ひれ付けてみんな話すけぇそれはいけん。｣唐突に入江が慌てだした。なるほど聞かれたくない話は多々あるようだ。｢分かりました。九一さん帰ってから聞きますね。｣｢違う。聞くのがいけん。私の過去は知らんでいい。｣｢そこまで言われると何したのか余計気になるんですけど。｣入江は気持ちの整理がついたら話すから今は待ってと必死に頼み込んだ。｢分かりました。九一さんの口から聞けるまで誰にも聞きませんよ。｣よっぽどだなと笑って入江の肩をぽんぽんと叩いた。｢そしたら初めて恋仲になった子の事は聞いてもいい？｣今までどんな人好きになったの？と好奇心の塊で入江の顔を覗き込んだ。｢抱いたけど……恋仲やと思った事ない……。｣｢早速最低やな。｣やっぱり男はそんなもんかと三津は眉間にシワを寄せ深い溜息をついた。｢三津から聞いといて不機嫌になるの意味分からん！｣｢いや，最初は恋心なくても段々好きになったみたいな話が聞きたかった。｣｢案外三津は乙女やな。｣案外乙女とか今はどうでもいい。ちょっと甘酸っぱいような恋話をこっちは聞きたいんだ。｢えー恋してないの？｣｢してたらこんなんにはなっとらん。｣真顔で言い切られて確かにと納得してしまった。じゃあ最初のその子は何がきっかけだったの？と聞いてみた。｢私の初めてもらって欲しいって迫られたから流れで。私はその一回で終わりのつもりやったんやけど……。｣『ホンマに長州の女の子は積極的なんやな……。』