「入江さんの女性遍歴知らんから何とも言えませんけど……。
大差ないのはちゃんと理由があるんですって。二人とも私に弱い所惜しみなく見せてくれるやないですか。それ見たら側にいて尽くしたくなるんですよ。」
それを聞いた赤禰はやろうな!と笑った。あまりにもげらげら笑うから三津はそんなに変な事言ったの?と目を丸くした。
「三津さん無意識にも程があるで。二人の弱い部分を引き出しとんのは三津さんやぞ?」 iambravesteve.wordpress.com
赤禰が喉を鳴らして笑うのを三津はぽかんとして見つめた。
「えっ私のせいですか?」
「そう,三津さんが深い愛情注ぐけぇ二人はそれに甘えて全部吐き出すそ。」
赤禰の説明に入江はうんうんと大きく頷いた。三津はそんな愛情注いだ覚えはないと首を捻った。
「つまり私が小五郎さんと九一さんを駄目にした?」
「いや,駄目にしてはない。そもそも人間みんな駄目な奴ばっかぞ。でも駄目な部分見せんように取り繕って生きとるそ。自分の弱い部分を見せたい奴なんておらん。おらんけどずっと取り繕うのは疲れる。分かる?」
三津がこくこく頷いたから赤禰は話を続けた。
「ましてや男なんざ好いた女にはいい格好したいけぇ絶対みっともない姿は見せたくないそっちゃ。でも,桂さんと入江はそれが見せられる。それは三津さんやからなそ。三津さんやなかったらそんな姿見せとらん。」
「そうよ?三津私に言ってくれたやろ?弱い部分を見せられる人は強いって。それ聞いてやっと受け止めてくれる人に会えたって思ったほっちゃ。知られたくない本音や過去を話すのは勇気がいるけぇ信頼出来んと話せんのよ。」
だから駄目にされたんじゃない。本来の姿に戻してくれただけ。入江はそれがどんなに嬉しかったかと力説した。
それを聞いて三津はふと赤禰を見た。
「武人さん……私の事信頼してくれてます?」
「しちょるから話したそ。」
三津が受け止めてくれる懐の深さを測りたかったが深かったのは愛情だった。そんな無償の愛を与えられたら離れられなくなるのはよく分かった。赤禰から信頼してるの言葉を聞いて三津の顔が分かりやすく明るくなる。
「ありがとうございます。」
三津が満面の笑顔を咲かせた所で小さな足音がした。
「フサちゃんや。」
入江が先回りして障子を開いて廊下に顔を出した。
「入江さん姉上お借りしていいですか?」
「三津ご指名や。」
「はーい,武人さん膝枕の続き必要ならまた声かけてくださいね。」
三津は笑顔とその一言を言い残してフサと行ってしまった。
「膝枕の続き要らんやろ?」
入江は嫉妬に満ちた笑顔で二度と要望するなと圧をかける。
「分かった分かった。余計な接触はせんっちゃ。ただでさえお前と桂さんが負担になっとるんや。俺は負担にならんようにする。でも二十七日は貸してほしい。」
「あぁ。相変わらず律儀に行ってるんやね。私も戻って来た挨拶に時間ずらして行くわ。」
そこは邪魔しないから二人でごゆっくりと笑った。
「ゆっくりするような場所やないけどな。そんだけ独占欲剥き出しにしといて何で手ぇ出さずおるんよ。」
「三津が怖い思いするんやないかって思うそっちゃ。さっきも部屋で震えちょった。晋作に羽交締めにされたんが怖かったんよ。
土方に襲われた時の恐怖が少しやけどまだ残っとる。私には気を許してくれとるって思うけど,もし怖い思いさせてしまったらって思うとそんなん出来ん。」
臆病な男やけぇと入江は笑った。
「悪い……そこまで考えとるとは思わんかった。」
「後付の言い訳の一つや。謝られることでもない。
もし男女の仲になって,お互い何か違うって感じてしまったら今の関係が崩れる。今が心地良いけぇ崩れるんが怖いんよ。」
それだけ三津を失うのが怖い。とんだ臆病者だと自嘲する。どれだけ大切なのか気付いてから失うのがより怖くなった。
「じゃけぇ予防策として三津が私を抱いてってお願いしとるそ。三津から来るなら多分気持ちの整理も覚悟も持って来ると思うけぇそれ待っちょる。」
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