
「さっ……最っ低っ!!!」
三津は拳を振り上げて怒鳴ったが高杉の逃げ足は早かった。
「何だ。長州に帰る時は餞別に三津さんの胸掴んでいいんだ。じゃあ私も帰ろうかな。」
「アカンに決まってるでしょ!」
三津は入江から伸びてきた両手を思い切り叩き落とした。動態紋消除
「あいつ桂さんからの恩を仇で返しやがったな。お前も馬鹿な事言ってんじゃないよ。」
久坂は桂の顔を見てみろと入江の腕を肘で突いた。
久坂の一言に全員がゆっくりと桂の方へ目を向けると途轍もなく冷たい笑みで鯉口を切っていた。
「落ち着いて下さいよ桂さん。晋作が一掴みしようが私が二掴みしようが桂さんが揉んだ回数には到底敵わない訳で。」
「入江さん!?めっちゃ笑顔でそんなん言うのやめてもらえます!?明るいうちからそんな話やめて!?」
「三津ちょっと背筋伸ばして?正確な大きさ分からないから。」
吉田が顎を擦りながら品定めをするかの如く上から下まで凝視する。
「馬鹿だな稔麿。着物の上からでは大きさも形も分かるまい。」
桂はふっと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「最っ低っ!!!男共の阿呆ぅ!!!」
三津は拳を震わせて吐き捨てると屋敷の中に駆け込んで行った。
「男共で括られた俺はとんだとばっちりなんたけど。
三津さん初なのをいい事にいい歳の大人達が止しなさいよ……。
口聞いてもらえなくなるの御免ですからね。」
久坂はやれやれと三津の後について行く。可愛い妹に嫌われたくない。
その背中を見送って吉田は桂に向き直る。
「……良かったんですか?使える駒の俊輔帰しちゃって。」
「晋作は長州に必要だからね。やむを得ない。」
吉田を見る目元はいつものように涼しげで,その余裕が吉田の苛立ちを煽る。
それが桂には手に取るように分かった。
「やっと煩いのもいなくなったし俺も遠慮なくやらせてもらいますね。」
「やめときなさい。三津に嫌われて距離取られるより今のままでいる方が賢明だと思うね。」
そんなに焦ったっていい事無いよと笑って桂は踵を返した。
『稔麿は案外不器用だからな。もっとやり方考えたらいいのに。
だって見てたら分かるだろ?三津さんに正攻法は通じないの。』
「もうひと波乱起こるかな〜。」
入江は聞こえないように呟いて片口を上げた。「随分と蕾も膨らんできましたねぇ。満開が楽しみです。」
凍てつく寒さも和らいで,陽射しも穏やかな春の空気に変わった。
『春の匂いがする。』
どこかウキウキしているアヤメの隣で三津は空を見上げた。
今年も桜は咲くんだ。
「三津さん?大丈夫ですか?」
「え?あっ!はい!春って何か眠くなりません?ぼーっとしちゃいました。」
突然アヤメに顔を覗き込まれて三津は慌てて笑って誤魔化した。アヤメも呑気に欠伸出ちゃいますよね〜と笑ってる。
「三津さんは桂様と桜を見にお出かけしはるんです?あ,桂様忙しいですかねぇ。」
「アヤメが心配せんでも行きたかったら桂様がちゃんと時間作りはるでしょ。」
『お花見かぁ……。もうすぐ一年になるんや……。』
まだ一年しか経っていないのに三津は自分の置かれた環境の変化の激しさに驚きしかない。
『お花見……多分小五郎さんは気を遣って何も言わはらへんやろなぁ。』
三津は小さく溜息をついてからまた空を見上げて流れていく雲を眺めた。
『新ちゃんとふくちゃんには大福持って手を合わせに行きたいけど。』
流れる雲がだんだん大福に見えてきた。
「三津さーん何見てるんです?」
青空を見ていたはずの視界には入江が入り込んでいた。
「え?あー……あの雲美味しそうやなぁって……。ふふっ忘れて下さい。」
我ながら突拍子もない事を言ったもんだ。三津はくすりと笑って屋敷の中へ引っ込んだ。
「三津さんどうしたんでしょ?何か変ですよね?」
アヤメは,ね?ね?とサヤと入江の顔を交互に見た。
「うーん……お腹空いてたんじゃないですかね?雲見て美味しそうって言ってたんで。」
入江はアヤメににっこり笑ってみせて心を鷲掴みにしてから三津の後を追いかけた。
近期熱門活動... |