
送り届けてもらった三津は何度も何度も頭を下げて礼を言った。
「気が済むまで泣いたらいいですよ。そうだ,今度気分転換に二人でご飯にでも行きましょうかね。三津さんの話も聞きたいですから。」
じゃあ行きますねと少し不安を抱きながらも久坂は家を後にした。
またもやみっともなく泣いてしまったなと頭巾を取ってかまちに腰をかけた。
「三ー津さんっ。」
戸の向こう側から呼ばれてゆっくり立ち上がった。
カラカラと戸を開ければ笑みを浮かべた入江が立っていた。
「……ホンマに都合良く現れますね。」 iambravesteve.wordpress.com
「そりゃあんな状態の三津さんに廊下でぶつかられたら心配にもなりますよ。」
そこであの時の相手が入江だと知った。
それはごめんなさいと弱々しく謝って俯いた。
「だからお話聞きに来ました。どうせ迷惑になるって変な気を遣って誰にも話してないんでしょう?」
私は相談相手でしょ?と首を傾げてみせた。
三津は少し黙り込んでからどうぞと中に通した。
「今度は何があったんです?」
湯呑みを片手に膝を突き合わせた。
三津は深い溜息のあとに,今朝の出来事から廊下で入江にぶつかるまでの経緯を話した。
他の女を選べばいいと言ってしまって後悔して,謝って素直な想いを伝えて仲直りしたかったのに……と。
「朝帰りしといて偉そうにサヤさん見習えってよく言えたな桂さん。
それなら桂さんは稔麿見習えばいいのにね。」
入江は馬鹿だなぁと笑った。
「おまけに香りのついた文なんか……。その匂いにどれだけ三津さんの胸が締め付けられてると思ってるんですかね?」
「いいんです……。私が至らないだけなんで……。」
それを聞いた入江の眉がピクリと動いた。
「本当にそう思ってます?変わらなきゃいけないのは三津さんだけですか?
桂さんだって三津さんの為にしなきゃいけない事はある筈だ。」
自分の代わりに怒ってくれてるような入江に三津の胸がきゅう……っと痛む。
「でも小五郎さんが望むなら私はサヤさん見習っ……。」
言い終わる前に入江に抱きしめられた。持っていた湯呑みがぼとりと落ちて脇に転がった。
「そんな必要ない。見習わなくとも三津さんは素敵な人だ。それすら分からなくなってる桂さんがどうかしてる。
あの人が多くを求め過ぎてるだけだ。」言葉に怒りが滲んでいても抱きしめる腕は柔らかかった。
『入江さんはいつも優しい……。』
不意に与えてくる口付けも抱きしめる腕もかけてくれる言葉も。
「素直な気持ち吐き出していいんですよ?自分を繕わないで下さい。
今の三津さんの気持ちを教えて下さい。何が辛くて何が悲しくて何を伝えたいのか。」
話していいんだ。甘えていいんだ。そう思った途端に色んなものが溢れ出した。
「サヤ……さ……んっ,みっ……見習えって言わっ……れたっの辛か……った!今の私じゃっ!一緒っ……いたくないって言われてるみたい……悲しかっ……た……。」
「うん,もっと言ってもいいんですよ。」
「朝……隣にいなくて心配したっ!のにっ!また女の人の匂いっ……する。それっ……も我慢するっの……しんどい……。」
泣きじゃくる三津の背中を温かい手が上下に擦る。
「三津さんは偉いです。ちゃんと理解して受け入れようとしてるんですから。」
どうしようもない愚痴を嫌な顔一つせずに聞いてくれる。ちゃんと言葉も返してくれる。
「偉くない……私駄目な子……。」
いつも上手くいかない。余計な一言を浴びせてしまう。
そして感情的になるとすぐに泣いてしまう部分も嫌で嫌で仕方ない。
すぐに泣くから子供だと思われるんだと思う。
「誰だって完璧じゃないですもん。駄目な所はありますよ。
それに我慢は体に悪いですからね。三津さんは自分でも気付かないうちに沢山我慢してるんですよ?知ってました?」
「え?」
そんなつもりはなかった。顔を上げてそうなの?と入江の顔を見つめた。
「三津さんはねいつも自分より相手を大事にしてるんですよ。だからもっと自分にも目を向けましょ?
貴女は駄目な所ばかりを口にするが駄目なんかじゃない。
それでも自身で否定をするなら私が肯定していきます。
今の貴女が好きですよ三津さん。」
近期熱門活動... |