から追われ、その上禁門の変では会津と薩摩を筆頭とした連合軍に叩きのめされた。
国を思う多くの同志を失ったのである。長州では"薩賊会奸"と呼ばれる程に忌み嫌われていた。
「晋作……」
「栄太、久坂、九一、iambravesteve.wordpress.com 寺島……皆死なんでええ筈じゃった。もっと生きるべき男達じゃった。幕府や薩摩に殺されたんと同じじゃ……!」
高杉は手が白くなるほどに拳を握る。怒りと無念さに手が震えた。
だが、と言葉を続ける。
「僕は木戸さんに賭けちょるけえ。僕よりもずっと多くを見てきた木戸さんなら、きっと長州の為になることを考えてくれよると。そう信じちょる」
長州単体で倒幕を遂行するのは不可能である。その上、同盟を組まないとなると確実に長州は滅びゆく運命にあった。悔いなくやれたのであれば、それでも構わないとも思う。しかし、散っていった者達のため、これからの未来を生きる者達のことを思えばそれは浅慮だと自分に言い聞かせた。
「……有難う。長州のため、散っていった者たちのため、そして……日ノ本の未来のために。幕府を倒そう。それしか無いんじゃ」
許すことなど出来ない。許すにはあまりにも多くのものを失いすぎたのだ。だが、感情を押し殺して妥協することは出来る。
「うん。長州は……薩摩と同盟に。晋作と話すと気持ちが固まるよ。私の臓腑なんてどうでも良いな」
「どうでもは良く無いが……。薬湯でも飲め」
「そうだね。ああそうだ、近々に坂本君が長州へ来るらしい。折角だから、晋作にも会った方が良いだろう?彼が来たら文を寄越すようにするよ」
坂本か、と高杉は口角を上げた。良く喋り良く笑う色黒の大男がその脳裏に浮かぶ。
「私は薩摩との会合のために下関へ行くけどね。……本当に晋作は来ないのかい?」
木戸の問いかけに高杉は頷いた。
「ああ。僕が行ったらカッとなって斬りつけてしまうかもしれんけえ。そうなったら困るんは木戸さんじゃろうて」
冗談めかしてそう言えば、木戸は口角を引き攣らせながら胃の辺りを摩る。想像しただけで臓腑が痛むらしい。
そんな木戸の様子を見て高杉はニヤリと笑った。幾多の土壇場を踏み越えてきたのにも関わらず、大事の前には必ず胃を痛める木戸が不憫だとは思うが、それでも自分は表舞台にはもう立てないと分かっている。
そんな高杉の思いを裏付けるように、肺腑を痛め付けるような咳が込み上げてきた。
「ゲホゲホッ、コホ……ッ、ハァ……」
それは一度始まれば中々収まらない。思えば木戸の前でこれ程酷い咳をしたのは初めてだった。それ故か、木戸は目を丸くして高杉の背をさすろうと近付いてくる。その手が背に触れようとした瞬間、高杉は殺気を込めて睨み付けた。
「ッ、なッ!」
高杉は懐から手拭いを取り出すと、口元に当てながら木戸から距離を取る。背を折り、何度も咳き込んだ。生理的な涙が目に浮かぶ。
その様子を唖然としながら木戸は見詰めた。やがて咳が落ち着いたのか、高杉は荒い息を吐き出しながら天を仰ぐ。
「……晋作。それは、ただの風邪では無いな」
よく見れば、前よりずっと痩せた気がした。着物の衿元から覗く鎖骨がくっきりと浮かんでいる。
木戸の問い掛けに、高杉はいつもの悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「じゃ」
高杉はあっけらかんと言って見せる。木戸は大きい目元を見開いた。
「あの有名な死病なんじゃと。……じゃけえ、僕は
近期熱門活動...
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